【現役に聞いた】文系弁理士の将来性やキャリアは?業務内容や年収も公開!
文系で弁理士資格に興味を持っている方の中には、
- 文系出身の弁理士に需要はあるのだろうか?
- 文系出身で弁理士としてやっていけるのだろうか?
と疑問に思う方もいらっしゃると思います。
今回の記事では、現役文系弁理士の私が文系弁理士の実情とこれからの展望についてお伝えしたいと思います。
1.文理別弁理士試験の合格者割合
弁理士といえば特許がメインの理系向けの資格、というイメージが強いと思います。
実際、2023年度の弁理士試験の結果を見ても、合格者の76%は理系です。年度によって若干の変動はあるものの、毎年、ほぼこの割合で推移しています。
2.弁理士試験は理系に有利?
弁理士試験合格者の約8割が理系というと、弁理士試験は理系に有利な試験なのか?という疑問を持つ方もいるかと思います。
しかし、弁理士試験の必須科目は全て法律の試験です。そのため、理系に有利というわけではありません。むしろ、文章の読み書きという観点からは文系の方が親和性のある試験といえますし、法学系の出身者であれば法律の読み方を既にある程度習得しているため、非常に有利な試験といえます。
3.文系弁理士の業務内容とは
合格までは文系理系に差がなくとも、合格後に文系出身者が弁理士として活躍できるフィールドはあるのか?結局文系だと仕事が無いのでは?などといった心配をされる方も多いかと思います。そこで、文系出身弁理士のキャリアの築き方として代表的な次の2つのパターンに分けてご説明したいと思います。
- パターンA:特許明細書をガンガン書くパターン
- パターンB:商標や意匠に限定した業務に特化するパターン
まずはパターンAですが、このパターンは通常の理系弁理士と何ら変わらない仕事をするということになります。即ち、特許業務に特化する、又は特許業務をメインとしつつ、商標や意匠も担当する、というタイプの弁理士となることを意味します。
化学やバイオといった領域は大学での専門教育がほぼ必須となるため文系弁理士が目指すのは困難ですが、機械系、ソフトウェア系の特許の場合、文系弁理士にも道が拓かれているといえるでしょう。実際、これまで私も文系出身で機械、ソフトウェア系の特許弁理士となった人達を何人も見てきました。
ただ、機械系の場合、機械工学や物理の知識が必要となるため、業務時間外にもかなり腰を据えて知識を身に付けることが不可欠となります。また、専門知識の習得のため、夜間の大学に行くというのもかつては比較的多く見られたルートでした。
これに対し、ソフトウェアの場合は文系出身のSEが多いことからも分かるように、必ずしも理系の分野とはいえないため、文系弁理士が活躍できる可能性はより広いといえます。
一方のパターンBは、商標や意匠といった理系知識が不要な業務に特化するというものですが、こちらは文系弁理士にとってよりスタンダードなキャリアの築き方といえます。
機械系やソフトウェアの特許を担当する場合、弁理士試験の特許法の知識とは別に機械工学やソフトウェアの知識が無ければ実務が出来ないのに比べ、商標や意匠の場合は商標法や意匠法の知識さえあれば最低限実務のスタートラインに立てることを考えると、文系弁理士にとってははるかに参入のハードルが低いといえるでしょう。
4.文系出身弁理士は特許もやるべき?商標・意匠に専念すべき?
大きくパターンAとパターンBの働き方があることが分かった上で、結局文系弁理士はどちらの働き方を目指すべきなのでしょうか?ここでは、文系弁理士である私の経験も踏まえてそれぞれのメリットとデメリットを比較しながら考えてみたいと思います。
(1)仕事を見つけるハードル
まず、文系弁理士が特許をやりたいといったところで、文系出身者を雇ってくれる事務所が無ければ始まりません。実は、ここが文系出身者にとって最大のハードルといってもいいかもしれません。
特許事務所や企業、転職エージェントに掲載されている特許弁理士の求人を見ると、要件として「理系の大学(院)出身者」などと書かれていることがほとんどだからです。厳しい現実ですが、特許業務の場合、実務の前提となる理系の知識が無い文系弁理士の需要はかなり低いと言わざるを得ません。
したがって、文系出身者が特許弁理士を目指す場合、就職(転職)活動はかなりの長期戦を覚悟する必要があります。これに対し、商標・意匠系であれば出身学部などは問われないので、求められるハードル自体は低いといえます。
また、国内企業の場合、商標は弁理士を使わず自社出願するケースも一定程度あるため、商標弁理士は特に外国のお客さんの獲得を狙い、外国企業・代理人に対する営業活動に力を入れる傾向があります。そのため、英語や中国語など語学が得意な商標弁理士の需要は非常に高いといえます。ただし、そもそも商標・意匠弁理士は求人数自体が特許弁理士と比べて少ない点は要注意です。
(2)待遇面の違い
特許弁理士と商標・意匠弁理士の待遇面の違いが気になる方も多いと思います。この点については、統計的なデータがあるわけではないのですが、一般的に特許弁理士の方が収入は高いとされています。特許弁理士であれば新人でも500〜600万円スタートといった求人も珍しくない反面、商標・意匠弁理士の場合は300〜400万円スタートというケースも少なくありません。
これは、特許と商標・意匠の単価に大きな差があることに起因していると考えられます。また、商標・意匠弁理士は年収の伸びも特許弁理士と比べて緩やかになりがちなので、長期的な視点に経ってキャリアを選択する必要があるでしょう。
(3)そもそも特許弁理士としてやっていけるか
さて、待遇面の差も考慮し、「やっぱり特許弁理士としてやっていきたい!」と考え、文系出身でありながら特許弁理士として採用されたとしても、実績を残せるかは問題です。なぜなら、皆さんのライバルは理系出身の弁理士だからです。文系出身者が機械系の明細書を書けるとして、大学院まで行って機械工学を学んだ理系弁理士と同じクオリティの明細書を書けますか?彼らと同じスピードで明細書を書けますか?よほどのセンスや事後的な勉強などがない限り、答えはNoでしょう。
また、特許弁理士が商標・意匠弁理士より待遇が良いとしてもそれはあくまで一般論の話です。特許事務所の場合売上制を採用していることが多く、その場合こなした件数に応じて年収が決定されることになります。知識面のハンデにより、理系弁理士よりはるかに明細書を書くスピードが遅い(=こなせる件数が少ない)文系弁理士は、売上で理系弁理士に大きく水をあけられる可能性があり、結果、理系弁理士と比較して年収に大きな差が出てしまうおそれがあります。実際、私の周りにも文系出身で機械系の特許に特化した弁理士がおり、彼は長時間労働も厭わず毎日真面目に働いていましたが、年収は同世代の大手メーカーのサラリーマンなどと比べても遥かに低いものでした。経験年数も5年程度経ち、それなりに明細書が書けるようになってからも、苦労は少なくないようでした。また、文系弁理士で、夜間の大学に行き機械工学を学んだ知り合いの弁理士もいますが、彼の場合、今では商標・意匠系に特化しています。やはり、明細書が書ける=理系弁理士と同レベルに特許弁理士としてバリバリ活躍できる、とはなりにくい点はしっかり肝に銘じておく必要があるでしょう。
5.結局どちらを目指すべきか
結局、文系弁理士は特許もやるべきか、商標・意匠系に特化すべきか。私の結論としては、(こういうと元も子もないのですが…)やりたいと思うことをやるべき、それに尽きると思います。
結局やりたいことをしている時が人間一番幸せだからです。文系弁理士にとって機械工学やソフトウェアを1から学ぶのは決して楽ではないでしょう。でも、「弁理士になったからには明細書を書きたい」「機械やソフトウェアって面白そう」と思うならば勉強も苦ではないでしょうし、理系弁理士に頑張ってキャッチアップすることも出来ると思います。
そうなれば、仕事をこなす件数も年収も理系弁理士と遜色ないレベルに到達することも夢ではないとでしょう。かくいう私も弁理士受験生だった頃、特許弁理士を目指すべきか進路に迷っていたことがありました。しかし、「本当に機械やソフトウェアが好きなのか?」「多くの時間をかけて1から勉強する意欲はあるのか?」と自問自答したところ、答えはNoでした。
私は結局、「特許弁理士だと商標や意匠もできるが、商標・意匠弁理士が特許をやりたいと急に思い立っても出来るわけではないので特許もやっておいた方が良いかも」「商標・意匠系の仕事はAIに取って代わられるかも」といった消極的な理由から特許の道に進むべきではないか、と考えていただけだったのです。
そして、自分の興味に素直に従い、私は商標・意匠弁理士となりました。仕事は人生の中で多くの時間を占めます。その多くの時間を消極的な理由で選んだ仕事に費やすのはきっと苦痛です。私は幸いにも語学が比較的得意、かつ語学の勉強を続けていくのを苦に感じないタイプであったため、先にお伝えしたような商標業務にフィットしやすかったという側面もあります。また、バックグラウンドが法律系であったことから、技術的な記載が不要で、純粋に法律的な側面のみから意見書や審判請求書が書ける商標・意匠業務により楽しさを感じることができるという面もあります。
そのため、私は心の底から商標・意匠弁理士になって良かったと感じています。将来性、キャリアアップの可能性など色々な条件を比較すること自体は勿論大事ですが、最後は「自分が興味があるのは何なのか」「特許と商標・意匠のどちらがワクワクするか」といった観点で素直に決めるべきだと思います。
文系出身弁理士でもやる気さえあれば特許弁理士、商標・意匠弁理士のいずれの道でも素晴らしいキャリアを築くことは可能ですので、是非皆さんの夢の実現に向けて頑張ってください。