弁理士になるために受験資格はいる?
~弁理士のなりかた・受験資格・免除制度~
こんにちは、弁理士・薬剤師の岩崎です。
本記事では、知財(=知的財産)に関係する国家資格である「弁理士」の国家試験に興味がある方に向けて、受験資格が必要なのか?弁理士試験の概要やその受験資格について、弁理士のなり方など解説しています。
■ 弁理士試験の詳細については特許庁のウェブサイトをご覧ください
特許庁ウェブサイト:弁理士試験 | 経済産業省 特許庁 (jpo.go.jp)
■ 資格スクール・対策予備校のウェブサイトや書籍の情報も参考になります
■ 弁理士資格の登録手続きの詳細は日本弁理士会のウェブサイトをご覧ください
日本弁理士会ウェブサイト:日本弁理士会 (jpaa.or.jp)
1.弁理士試験に受験資格は要らない…けど
知的財産(=知財)の専門家である「弁理士」になるには、まず、国家試験(弁理士試験)に合格することが必要です。弁理士試験は、専門的な国家資格ですが、受験資格は一切ありません。学歴・国籍・性別・年齢問わずどなたでも受験することができますので、比較的取り組みやすい国家試験といえるかもしれません。
1-1. 個別の試験には受験資格や免除制度がある
ただし、弁理士試験は筆記式試験と口述式試験に分かれ、筆記式試験はさらに短答式筆記試験と論文式筆記試験に分かれています。これらの試験は受験者が好きな順番で受験することはできず、すべてを定められた順番に突破する必要があります。そのため、最初の関門となる短答式筆記試験にこそ受験資格の制限はありませんが、続く論文式筆記試験や口述式試験は前段となる各試験に合格している必要があります。
一見すると、弁理士試験の受験資格は必要ないように見えますが、それぞれのステップにおいて前段となる試験などに合格していることが次なるステップの要件となっています。また、受験資格と関連する内容として、試験の免除制度があります。ここからはそのそれぞれのステップの詳細を見ていきましょう。
1-2. 弁理士試験の概要と試験ごとの受験資格
先ほども触れましたが、弁理士試験は3つの段階に分かれています。それぞれの試験の受験資格を含めて各試験の特徴を紹介します。
1)短答式筆記試験
形式 | 5肢択一のマークシート式 |
問題数 | 60問 |
試験時間 | 3.5時間 |
出題範囲 | ・ 特許、実用新案に関する法令・ 意匠に関する法令・ 商標に関する法令・ 工業所有権に関する条約・ 著作権法、不正競争防止法 |
合格基準 | 全体で満点の65%以上(ただし、各科目40%を下回る科目がないこと) |
受験資格 | 特になし |
受験地 | 東京、大阪、仙台、名古屋、福岡 |
実施時期 | 例年5月中旬~下旬 |
出典:弁理士試験の概要 | 経済産業省 特許庁 (jpo.go.jp)
短答式筆記試験には、受験資格がありません。上述の幅広い出題範囲に基づくマークシート式の筆記試験に合格することで次のステップに進めます。なお、受験地は東京・大阪・仙台・名古屋・福岡と全国5箇所で開催されますので、ご自身で受験しやすい受験地を選択することができます。
短答式筆記試験の合格発表は6月上旬頃に行われますが、各種受験予備校が解答速報を試験当日の夜に公開しており、また、試験実施機関である特許庁も正答を試験日の翌日にはウェブサイトに公開しています。次の論文式筆記試験への準備をしっかり行うためにも、短答式筆記試験を受験したあとは自己採点を行い、いち早く、合否を自身で判断して次のステップに備えることが必要です。
2)論文式筆記試験
形式 | 論文記述式 |
問題数 | 必須:3科目選択:1科目 |
試験時間 | 【必須科目】■ 特許・実用新案 2時間■ 意匠 1.5時間■ 商標 1.5時間 |
【選択科目】 1.5時間 | |
出題範囲 | 【必須科目】■ 特許、実用新案に関する法令■ 意匠に関する法令■ 商標に関する法令 |
【選択科目】 ※下記のうち1つを選択■ 機械・応用力学(理工Ⅰ)■ 数学・物理(理工Ⅱ)■ 化学(理工Ⅲ)■ 生物(理工Ⅳ)■ 情報(理工Ⅴ)■ 法律(弁理士の業務に関する法律) | |
合格基準 | 【必須科目】全体で満点の54点以上(※47点を下回る科目がないこと) |
【選択科目】満点の60点以上 | |
受験資格 | 短答式筆記試験に合格にすることが必要 |
受験地 | 東京、大阪 |
実施時期 | 必須科目:例年6月下旬~7月上旬 |
選択科目:例年6月下旬~7月上旬 |
出典:弁理士試験の概要 | 経済産業省 特許庁 (jpo.go.jp)
論文式筆記試験の受験資格は、短答式筆記試験に合格していることです。なお、後述する免除制度があるため、必ずしも同じ年に短答式筆記試験に合格している必要はありません。受験地は東京か大阪の2か所のみになります。短答式筆記試験とは受験地が異なる可能性があるので、受験願書を提出する際にしっかり確認しておきましょう。必須科目の試験当日は約5時間にわたって、また、選択科目の試験当日は約1.5時間にわたって論文を完成させる必要があります。論文式筆記試験は相対評価ですので、いわゆる偏差値として合格基準を上回っていれば合格となり、次のステップに進めます。
論文式筆記試験の合格発表は、9月中旬ごろに行われます。受験するのが6月から7月ですので、しばらく間が空き、受験生にとっては束の間の夏休みのように思えます。しかし、論文式筆記試験の合格発表から口述式試験の試験日までは約40日しかないのが通例です。合否が判明してから慌てることがないように、再現答案を作成して予備校で採点してもらったり、特許庁から公表される論点を参考にご自身が合格できていそうか否かを予想したりして、次のステップに備える必要があります。
3)口述式試験
形式 | 口述式(面接) |
問題数 | 3科目 |
試験時間 | 科目ごとに約10分 |
出題範囲 | 特許法・実用新案法意匠法商標法 |
合格基準 | 「C」評価が2つ以上ないこと※各科目「A」~「C」の3段階評価 |
受験資格 | 短答式筆記試験及び論文式筆記試験(必須科目・選択科目)のすべてに合格していること |
受験地 | 東京 |
実施時期 | 例年10月中旬~下旬 |
出典:弁理士試験の概要 | 経済産業省 特許庁 (jpo.go.jp)
口述式試験の受験資格は、短答式筆記試験と論文式筆記試験のすべてに合格していることが必要です。口述式試験は、受験生が受験会場で各部屋を順番に周り、室内に待機している試験官からの口頭試問を受ける形式です。試験会場は東京都内のホテル等でフロアを貸し切って行われます。筆者の経験では、会場はやや薄暗く、フロア全体が張り詰めた空気に包まれています。
余談ですが、口述式試験が弁理士試験の最後の関門であることから、クリアを目指してボス攻略に挑むタイプのゲームの最後のボス(ラスボス)になぞらえて、試験会場を”ラスボスタワー”と呼ぶ受験生も少なくありません。
口述式試験の合格発表は、10月下旬から11月上旬頃に行われます。無事に口述式試験に合格することができれば、弁理士試験に最終合格したこととなり、11月上旬に合格証書が郵送されてくるでしょう。
1-3. 免除制度
弁理士試験には様々な免除制度が用意されています。ご自身にあてはまる免除資格をしっかり確認しておくことで、効率的に受験勉強を進めることができるでしょう。
1)短答式筆記試験の免除
①全科目の免除
前年度以前の弁理士試験で短答式筆記試験に合格している場合は、合格年度を含めて3年間は短答式筆記試験の全科目が免除されます。
②一部科目の免除
平成20年1月以降に大学院の課程に進学し、当該大学院において弁理士法施行規則第5条で定める工業所有権に関する科目の単位を修得し当該大学院の課程を修了した方で、工業所有権審議会から一部科目の免除の認定を受けた方は、弁理士試験短答式筆記試験の一部科目が免除されます。
免除される科目は工業所有権に関する科目(特許・実用新案、意匠、商標、条約)で、著作権・不正競争防止法に関する科目のみ受験が必要なので注意してください。
2)論文式筆記試験(必須科目)の免除
①必須科目の免除
前年度以前の弁理士試験で論文式筆記試験に合格している場合は、合格年度を含めて3年間は論文式筆記試験の全科目が免除されます。
②修士・博士等の学位に基づく選択科目の免除
修士・博士・専門職の学位を有する方は、工業所有権審議会に必要書類を提出することで選択科目が免除されます。ご自身の学位の種類によって、必要な提出書類が異なりますので、十分に注意してください。また、学位論文概要証明書等は他の書類等で代えることができますが、場合によっては学則・履修規則など多くの書類の提出が要る場合もあります。詳細は特許庁ウェブサイトをご確認ください。
特許庁ウェブサイト:修士・博士等の学位に基づく論文式筆記試験(選択科目)の免除について | 経済産業省 特許庁 (jpo.go.jp)
③他の公的資格の取得に伴う選択科目の免除
他の公的な資格を有する方は、その資格を保有することを工業所有権審議会に示すことで対応する選択科目が免除されます。
他の公的資格と免除される選択科目は以下の通りです。
他の公的資格 | 免除される選択科目 |
---|---|
技術士であって、別表1に記載する技術士試験の選択科目に合格した者 | ※詳細は特許庁ウェブサイトの別表1をご参照ください |
一級建築士 | 理工Ⅰ(機械・応用力学) |
第一種電気主任技術者免状又は第二種電気主任技術者免状の交付をうけている者 | 理工Ⅱ(数学・物理) |
薬剤師 | 理工Ⅲ(化学) |
電気通信主任技術者資格者証の交付をうけている者 | 理工Ⅴ(情報) |
情報処理安全確保支援士試験の合格証書の交付をうけている者 | 理工Ⅴ(情報) |
情報処理技術者試験合格証書の交付をうけている者で、別表2に記載する試験区分に合格した者 | ※詳細は特許庁ウェブサイトの別表2をご参照ください |
司法試験に合格した者等 | 法律(弁理士の業務に関する法律) |
司法書士 | 法律(弁理士の業務に関する法律) |
行政書士 | 法律(弁理士の業務に関する法律) |
出典:特許庁ウェブサイト 公的資格による選択科目免除一覧
2. 弁理士試験合格後の次なるステップ
2-1. 実務修習を申し込もう
実務修習は、弁理士試験合格のための勉強だけでは学ぶことのできない、弁理士として活躍するために必要不可欠かつ高等の専門的応用能力を修得することを目的として、日本弁理士会が指定修習機関となり実施しているものです。弁理士登録し、活躍するためには必ず実務修習を受ける必要があります。
例年弁理士試験の最終合格者が10月下旬から11月上旬に発表されますが、その後、11月中旬ごろに受講申込書の受付期間が設けられます。実務修習自体は例年12月上旬から翌年3月下旬まで続きます。
詳細は、日本弁理士会のウェブサイトをご参照ください。
参考: 日本弁理士会ウェブサイト:実務修習について | 日本弁理士会 (jpaa.or.jp)
2-2. 登録の手続きを行おう
弁理士試験に合格し、実務修習も修了した方は「弁理士になる資格」を有しています。最後に、日本弁理士会に対して所定の手続きを行うことで、弁理士として登録を受けることができます。
様々な書類を作成したり、発行を申請したりする必要がありますので期限を確認の上、漏れのないように書類をそろえてください。また、登録免許税として60,000円を、登録料・初月会費として50,800円を、各々支払う必要があります。
詳細は、日本弁理士会のウェブサイトをご参照ください。
参考: 日本弁理士会ウェブサイト:弁理士登録申請について | 日本弁理士会 (jpaa.or.jp)
3. まとめ
弁理士試験の受験資格という観点から、各試験の概要や受験資格、そして試験の免除制度、その後の弁理士登録までの流れを見てきました。弁理士試験自体は受験に何らの制限もなく、受験資格も要りませんが、ステップが進むにつれて受験資格が必要になったり、逆に受験自体が免除される資格があったりする場合があります。
ご自身の当てはまる要件をしっかり確認して、弁理士試験に臨んでください。