知財アナリスト?どんな資格?
こんにちは、弁理士・薬剤師の岩崎です。
本記事では、「知財アナリスト」の資格に興味を抱いている方に向けて、
知財アナリストの資格について、また、その取得方法について概要を解説していきます。
そして、最後に資格取得後のキャリアについても考えてみましょう。
知財アナリストの詳細については、資格の運営母体である知的財産教育協会のウェブサイトをご覧ください。
■ 知的財産教育協会ウェブサイト:知的財産教育協会 HOME (ip-edu.org)
■ 知財アナリスト公式サイト:知的財産教育協会 知的財産アナリスト (ip-edu.org)
1.知財アナリストってなに?
1-1. 今、求められる知財アナリストの重要性
知財の業界に携わった方であれば、共感いただける方も少なくないと思いますが、知財は業務内容がとても専門的であるがゆえに、長く経験を積んだ方であればあるほど、ご自身の得意な領域の“スペシャリスト”になりがちではないでしょうか。 一方で、株式市場への上場・非上場を問わず、企業の経営陣の多くは、広い視野・強い理念・深い経験に満ちた“ジェネラリスト”の方々である場合も多いでしょう。
“知財アナリスト”は、正式には「AIPE認定 知的財産アナリスト」といいますが、
知財のスペシャリストでありながら、ジェネラリストな経営陣を支える特殊スキルを有する人材、それこそが「AIPE認定 知的財産アナリスト」であると言われています。
知的財産教育協会(AIPE)の公式サイトでは、以下のように紹介されています。
企業経営・ファイナンス・知的財産に関する専門知識を有し、国内外の他社・自社の各種知的財産関連情報の収集・分析・評価・加工、知的財産あるいは企業の価値評価等を通じて、企業の戦略的経営に資する情報を提供できる特殊スキルを持つ職種
知的財産教育協会 知的財産アナリストとは (ip-edu.org)
2021年6月にコーポレート・ガバナンス・コード(CGC)が改訂され、上場会社であれば、知財への投資について、自社の経営戦略・経営課題との整合性を意識しつつ、わかりやすく具体的に情報を開示・提供することが求められ、さらには、知財への投資の重要性に鑑みて、経営資源の配分や、事業ポートフォリオに関する戦略の実行が、持続的成長に資するよう、経営陣が実効的に監督を行うことが求められています。また、非上場企業の経営陣においても、CGCへの具体的対応は不要だとしても、CGCに準じた情報の開示・提供や、経営陣による管理監督が求められているでしょう。
市場のグローバル展開が基本となり、様々な技術革新が日夜行われ、多種多様な情報が錯綜し、さらには、顧客体験もモノからコトに変化しているといわれる現代社会において、企業経営には、経営戦術だけでなく、ファイナンスの知識や業界の情報をいち早く的確に把握するスキルも求められています。さらに「知財」と「経営」を連動させる人材の重要性が増してきております。
1-2. 資格の概要
“知財アナリスト”と名乗れる資格としては、現時点では次の2つがあります。
① AIPE認定 知的財産アナリスト(特許)
② AIPE認定 知的財産アナリスト(コンテンツ)
いずれも「知的財産アナリスト認定講座」を受講し、「認定試験」を突破する必要があります(この部分については、のちほど触れます)。
この2つの資格について、概要をみていきましょう。
まず、「AIPE認定 知的財産アナリスト(特許)」(以下、「知財アナリスト(特許)」と書きます)は、上述のような知財アナリストの中でも、特に特許情報分析を含む知的財産情報分析のスキルを有し、製造業などのモノづくり領域における、「経営」と「知財」を結ぶ専門人材です。
知財アナリスト(特許)は、企業の経営関連部門(経営企画部門・マーケティング部門・研究開発部門・知的財産部門など)と、それを支えるプロフェッショナル人材(特許事務所・コンサルタント・サーチャー・証券アナリストなど)を対象に、いわゆる「IPランドスケープ」業務の担い手として期待されています。
次に、「AIPE認定 知的財産アナリスト(コンテンツ)」(以下、「知財アナリスト(コンテンツ)」と書きます)は、上述のような知財アナリストの中でも、特にコンテンツを活用したビジネスにおいて、事業や企業に新たな価値を創造し、経営に貢献するために目まぐるしい市場環境の変化とグローバル化に素早く対応ができる提案力をもつ専門人材です。
コンテンツビジネスにおいては、より多角的にコンテンツを展開するために求められるマーケティングに重点を置くことができ、コンテンツを活用した事業の構想から会計・法務・知財の役割を戦略そのものと位置付ける取り取組みを通して、経営者が必要とする情報を提供できる人材として知財アナリスト(コンテンツ)の活躍が期待されています。
1-3. どんな人が向いている?
知財アナリストは、末尾の(特許)か(コンテンツ)かによって資格の種類はあるものの、いずれも知的財産の専門的知識を活かして、企業の経営者等により的確な情報提供を行うことが共通しています。したがって、所定の有資格者のうち、以下の方が身に着けるとより活躍の幅を広げられると考えられます。もしご自身が当てはまる部分があれば、前向きに資格取得を検討してみてはいかがでしょうか。
① 業種
1)製造業全般
流通段階の最終製品を完成させ、一般消費者に向けて直接または間接的に販売・提供する製品(いわゆるB to C製品)の製造業や、最終製品を製造するための原材料、中間製品、部品などの商流の次のステップの企業に向けて販売・提供する製品(いわゆるB to B製品)の製造業など
2)コンテンツ関連企業
映画、アニメ、音楽、ゲーム、書籍等のコンテンツに関連した製品を製作して販売・提供・配信などする企業、映像作品等の放送業、特定のキャラクター関連の企業など
3)調査関連企業
知的財産を含めた技術調査、市場調査、産業動向調査などの提供企業など
4)経営支援/コンサルティング関連企業
企業の経営状態や将来性を分析・評価し、各方面の経営支援をする企業など
② 部門
- 経営企画部門/経営管理部門
- 知的財産部門/法務部門
- マーケティング関連部門(特に情報管理等の業務)
- ライツ管理部門
- その他の専門業務部門(サーチャーなど)
③ 思考
- 知的財産を含めた情報の収集や分析が得意または好きである
- 知財戦略を企業の経営戦略・事業戦略と一致させて実効的に立案・推進したい
- 企業の経営活動と知的財産活動をつなぐ人材として成長したい
- 自身の有する知識を活用しつつ、スキルアップ・リスキリングに励みたい
2.知財アナリストになるためには
2-1. 資格保有者の数
2011年から始まったAIPE認定知的財産アナリスト(特許)は、2024年6月現在において、1,602名の方が資格を保有していらっしゃいます。また、2012年から始まったAIPE認定知的財産アナリスト(コンテンツ)は、2024年6月現在において、301名の方が資格を保有していらっしゃいます。
資格の歴史も踏まえて、現時点での資格保有者を多いと感じるでしょうか。それとも少ないと感じるでしょうか。また、一見すると知財アナリスト(特許)の資格保有者が多く、知財アナリスト(コンテンツ)の資格保有者が少ないように見えるかもしれませんが、その印象は正しいでしょうか。
これには次に紹介する認定講座の開催頻度、受講資格も関係している可能性があります。
2-2. 認定講座とその開催頻度
先ほど少し触れましたが、知財アナリストになるには、AIPEが主催する認定講座を受講する必要があります。
知財アナリスト(特許)の認定講座は、初年である2011年こそ年1回のみの開催でしたが、その後は年間2~3回開催されており、2024年現在では、年3回(第37期~第39期)開催されています。近年は年間3回の開催がコンスタントに続いており、1回目は初春頃(1~4月ころ)、2回目は初夏頃(5~7月ころ)、そして3回目は秋冬頃(9~11月ころ)に開催されているようです。
知財アナリスト(コンテンツ)の認定講座である「コンテンツ・ビジネスプロフェッショナル」の講座は、2012年から開始され、初年こそ年1回でしたが、その後は年2回ずつ開催されており、2024年現在では、第23期~第24期の認定講座が開催されています。
なお、認定講座は、COVID-19の流行以降は、オンライン開催が原則のようです。
各認定講座の具体的なカリキュラムやタイムスケジュールについては、公式サイトに公開されていますので、詳しく知りたい方は公式サイトを確認してください。
2-3. 認定試験
「認定講座」の終了時に開催される「認定試験(学科試験・実技試験)に合格した方が、AIPE認定知的財産アナリストとして認定を受けることができます。
下表に認定試験の学科試験と実技試験の概要を掲載します。
試験種別 | 学科試験 | 実技試験 | |
---|---|---|---|
内容 | 各科目の知識の確認試験 | 指定課題によるレポート作成 | |
実施形式 | 出題範囲:全範囲問題数:40問(択一) | 【特許】課題数:2課題課題:課題出題日に指定 | 【コンテンツ】 課題数:2課題課題:課題出題日に指定 |
合格基準 | 満点の70%以上 | 満点の60%以上 | 満点の60%以上 |
出典:知的財産教育協会 認定試験/再受験・再受講 (ip-edu.org)
認定試験の評価基準は2024年から改訂されており、「特許」は第37期(2024年1月開講)より、「コンテンツ」は第23期(2024年4月開講)より、これまでの7段階評価から6段階評価になっています。
評価の高いほうから「S」、「1」、「2」・・・「5」の6段階評価となります。
数字が大きいほうの評価がより良いというわけではありませんのでご注意ください。
2-4. 受講資格
知的財産アナリストの認定講座には、受講資格が存在します。資格の性質上、複数の領域の知見を必要とする高度かつ広域化された特殊スキルを学ぶ講座ですので、一定の専門的知識をあらかじめ有していることが求められます。具体的には少なくとも下記のいずれかの資格を有している必要があるようです。
- 一級知的財産管理技能士(特許専門業務/コンテンツ専門業務/ブランド専門業務)
- 二級知的財産管理技能士(管理業務)
- 弁理士
- 弁護士(外国法事務弁護士を含む)
- 技術士
- 中小企業診断士
- 証券アナリスト
- 公認会計士または会計士補
- 税理士
- 銀行業務検定合格者(法務財務税務信託のいずれか。ただし、3級及び4級を除く)
- 米国公認会計士(CPA)
- ビジネス著作権検定上級合格者
3.取得後のキャリアを考える
3-1. 企業での活躍の道
業種によって企業の知的財産部門のプレゼンスは様々ですが、知的財産部門にご所属の方であれば、知財アナリストの資格を得ることによって、技術情報(特許・論文)や他社製品情報などの各種情報からIPランドスケープを実施し、自社の経営戦略・事業開発戦略・研究開発戦略・知的財産戦略を検討するための会議における提言をはじめ、関連する資料の作成に携わることができる可能性があります。また、競合他社の今後の動向分析を実施し、上記の戦略検討の場で分析結果を提言することも可能になるでしょうか。
また、コンテンツ関連企業においては、経営管理部門・マーケティング部門等の方が、より適切な市場分析を実施することで、適切な製品販売戦略の提言であったり、製品や事業の適切な撤退時期の提言であったり、自社注力事業の選別・事業譲渡先の候補の提言であったり、新規事業の展開可能性を評価することもできるかもしれません。
3-2. 知財アナリストとしての独立・開業の道
知財アナリストの資格を活用して実施する分析や評価の結果は、ご自身の所属企業の経営陣に対して、あるいはクライアントに対して、羅針盤となり、経営状態の向上・改善、事業の成功の糸口を指し示す可能性を秘めていると考えます。このような情報を提供できる知財アナリストの資格を取得することで、独立開業して新たに事業を営んでいくことはできるでしょうか?
結論からいえば、残念ながら、知財アナリストを取得したことだけを理由に独立開業することは難しい場合が多いでしょう(ただし、一定の経営コンサルティング事業等、企業経営支援に特化したビジネスを検討される方を除きます)。一方で、知財アナリストの資格を取得可能な方々は、すでに一定の公的な資格を保有されているはずです。ご自身がすでに保有する資格等の専門スキルに対する付加価値を得て、より深く、より幅広く業務を行うことが可能になるでしょう。
3-3. まとめ
AIPE認定知的財産アナリストについて、全般的な内容を紹介してきましたが、どのように感じられたでしょうか。あくまでも個人的な見解ですが、資格の歴史自体は10年以上になりますが、知財アナリストとしての市場はまだまだブルーオーシャンであると感じます。ご覧いただいた方がすでに知っている知識の確認になった、抱いている興味・関心がより強くなったようなことがあれば、ぜひ資格取得を目指していただけると幸いです。