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知財キャリアインタビュー②:特許技術者へのインタビュー

パテキャリ編集部 編集長
知財キャリアインタビュー②:特許技術者へのインタビュー

今回、特許技術者、特許翻訳者としてのご経験がある、N.Yさんにインタビューをいただくことができたので、N.Yさんの知財キャリアについて、深堀していきます。

知財に入ったきっかけや経緯

パテキャリ編集部 今回はインタビューをお受けいただきありがとうございます。 N.Yさんのキャリアなどについてお話を伺えればと思います。早速ですが、N.Yさんが知財に関わるようになった経緯について教えていただけますでしょうか。

N.Yさん: はい、よろしくお願い致します。

私は、東京の夜間の理系大学で化学を専攻していたので、昼間働きたいと考えていたところ、クラスメートからの紹介で、正社員の事務要員として特許事務所で働くようになりました。

特許事務所という業種はそれまで知らなかったのですが、

  • 語学を生かせる
  • 最先端の技術に触れられる
  • 書類作成が主体の業務なので自身のペースで作業を進めることができる

という利点があることに気づき、個人的に、いずれは家庭をもうけて子供が生まれても、育児をしながらキャリアを継続させたかったため、語学と化学の両方に携わることができ、働き方を自分でコントロールできる業種ということで、とても魅力的に感じました。

パテキャリ編集部 学生時代から特許事務所で働いていたのですね。すごい行動力ですね。その頃はどのような業務をされていたのですか?

N.Yさん:1990年初期の当時は受付事務員として働いており、来客・電話の応対、英文レターの清書、ファイルの整理などが主な業務でした。当時まだコンピュータは普及しておらず、特許庁への電子出願システムも始まったばかりで、明細書等の文書の作成は、英文タイプライターやワープロで作成していました。

パテキャリ編集部 実際にご自身が知財の業務にかかわるようになったきっかけは何でしたか?

N.Yさん: 大学卒業予定となったときに、同事務所で特許技術者として働きたいと申し出たのですが、女性は不要、とのことで採用に至らなかったため、別の事務所の募集を探し始め、卒業後半年ほどして、ようやく、内外特許技術者として都内のある特許事務所に採用されました。

特許事務所での経験~特許技術者・翻訳者の魅力~

パテキャリ編集部 採用された特許事務所ではどのような経験をされましたか?

N.Yさん: 内外特許出願、つまり、国内の企業等が、米国、欧州、アジア諸国等で特許権を取得するための出願にかかわる内外特許技術者として採用されたその特許事務所では、翻訳者としてだけでなく、拒絶理由通知への対応など、技術者としての業務も経験しました。

特許事務所において、内外特許出願の代理をする場合、PCTルート、パリルートのいずれの場合も権利を取得したい各国の代理人に代理を依頼し、次のようなざっくりとした流れになります(現時点での法律、施行規則に従って)。

  • PCT出願を(国内出願を基礎出願としてあるいはせずに)日本の特許庁を受理官庁として出願する/国内出願を基礎出願として優先権主張してパリルートで各国に出願
  • 審査請求の要否(米国は審査請求なしで審査される)、各国特許庁への応答等、現地代理人の提案等を翻訳してクライアントに伝え、クライアントの指示を仰ぐ
  • クライアントの指示に従い、クライアントの指示を翻訳して現地代理人に手続き(審査請求、手続き補正等)を依頼
  • 現地代理人からの報告を翻訳してクライアントに報告

内外特許出願の場合、現地代理人とのやり取りと、クライアントのやり取りを取り持つことが代理人としての業務になるため、都度翻訳作業も発生し、手間暇のかかるものとなります。

様々な分野の特許出願明細書の翻訳、中間処理を経験する中で、翻訳の質が審査に大きく影響することを痛感する経験をし、翻訳文の不備が原因で、審判請求までした案件もあったことから、知財における翻訳の重要性を強く意識するようになりました。

その後、ご縁あって、ヨーロッパ、主にドイツ企業の代理を多く扱う特許事務所で、外内特許出願、つまり、外国の企業が日本で特許権を取得するための出願にかかわる特許技術者として採用されました。

特許事務所における外内特許出願のざっくりとした流れは次のとおりです(現時点での法律、施行規則に従って):

  • 外国のクライアントからPCT出願の日本移行出願、あるいは、パリ優先出願の依頼を受ける
  • PCT移行期限/優先権主張期限までに国内書面の提出/特許出願を行う
  • 翻訳文の作成と提出(国内書面提出期限(優先日から2年6ヶ月)から2ヶ月以内/原則として優先日(最先の優先権主張の基礎とした出願日)から1年4ヶ月以内)
  • 翻訳文が提出されれば、その後は、通常の特許出願と同様に手続き(審査請求、審査)が進む

外国語書面出願が、英語以外の言語でも可能になったのは、201641日からで、それ以前は、英語以外の言語の場合、例えば、翻訳文提出までの期間の利益や、誤訳があった場合の誤訳訂正書での対応などの外国語書面出願の利益が享受できませんでしたから、特許出願における翻訳の困難性・重要性をますます認識するようになりました。

パテキャリ編集部 そうなのですね!特許出願における翻訳の困難性・重要性について、具体的に教えていただけますか?

N.Yさん: そうですね、このような事例がありました。

パリルートの出願案件で、原文がドイツ語の中途受任案件で、審判請求までした非常にやっかいな案件がありました。拒絶理由の主な理由は特許法第36条第6項第2項だけでなく、第36条第6項第1号のサポート要件違反でした。

サポート要件違反(第36条第6項第1号)は「請求項に係る発明が発明の詳細な説明に記載した範囲を超えるものであってはならない旨を規定している」条項です。

クライアントに報告したところ、原文のXX頁のYY行に記載されているから問題ないとのことで、原文明細書を確認すると確かにその通りなのですが、日本語の明細書を見るとその部分の訳文がすっぽり抜けているではありませんか!

こうなると途方に暮れるばかりです。中途受任であることから、事務所には責任はありませんが、クライアントに翻訳不備の事情を説明して、他にサポート要件違反をクリアできる記載やヒントがないか問い合わせ、上司に相談もして自身でも賢明に探し、意見書でへりくつをこねくりまわして(!)応答しましたが、案の定拒絶査定。それでもクライアントは納得しません。当然です、原文明細書の発明の詳細な説明に不備はないのですから。

審判請求し、何度か応答しましたが、結局拒絶理由を覆すことができず、クライアントも諦めてしまいました。

このような事例は極端ですが、一番重要なことは、原文が英語であろうと他の言語であろうと、日本での特許出願の審査には、日本特許庁の審査基準が適用される、ということです。

例えば、ある構成要件が違う用語で記載されているようだけど同じか否か、実施例や図面で確認できなかった場合には、翻訳文を提出する前にクライアントに問い合わせるなどして、翻訳文提出前にできるだけ審査基準に照らし合わせて翻訳文を作成する必要がある、つまり、翻訳の「でき」次第で、権利範囲が決まってしまうのです。

パテキャリ編集部 翻訳の重要性を改めて認識させられるお話ですね。そのように長年特許技術者・翻訳者として働いてこられた中で知財のお仕事にどのような魅力があると思いますか?

N.Yさん: 冒頭で申し上げた利点(語学を生かせる、最先端の技術に触れられる、自身のペースで作業を進めることができる)がそのまま魅力になっています。中でも、最先端技術に常に触れられる、という点でしょうか!

特許事務所では、企業の知財部のように、知財の構築を企業戦略の一環としてみることがないため、受任した案件が社会にどのような影響を及ぼすかはわかりにくいのですが、それでも、世の中の技術的動向を知ることができると思います。

N.Yさんの今後の展望と知財の未来

パテキャリ編集部 最後に、N.Yさんの今後の展望と知財の未来についてのお考えをお聞かせくださいますか?

N.Yさん: これは、知財業界に限らないのでしょうが、近年、SNSの普及、生成AI利用の一般化に伴い、情報の収集、生成が非常にめまぐるしく行われるようになり、そうした「便利ツール」を、普段の業務にどのように取り入れ、より効率的に作業をこなしていけるかを常に考えなければならない時代になったと思います。

特許出願明細書の作成や翻訳などは、すでに生成AIを利用する時代になっていますが、利用には慎重さが必要だと思います。

例えば、自分が所属する事務所では、生成AIを利用して特許出願明細書を作成したり、翻訳文を作成したりは、すでに行われていますが、生成AIは、あくまでも既存のデータベースに基づいて情報を拾ってきているため、当業者や専門家でないと「気づきにくい間違い」が潜んでいることが多いので、実際に庁に提出する前には厳密な精査が必須です。

また、生成AIの利用にはインターネットへのアクセスが必須ですから、情報の扱いには慎重にならなければならないと思います。

とは言え、明細書、翻訳文の一次原稿を作成するには、生成AIは非常に便利なツールであり、近い将来汎用ツールになると思いますので、企業も特許事務所も生成AIを有効に利用するための知識、例えば、適切なプロンプトを作成する知識等をどんどん吸収して、作業の効率化・高品質化を図っていくことがこれからもっともっと必要になっていくと思います。

私自身の個人的な考えではありますが、そうした中で、これまで、弁理士・開発者、技術者といった専門家の知識にだけ頼っていた知財業界は、こうした生成AIの台頭によって、彼らの知識を誰でもより簡単に入手できるだけでなく、利用さえできる世の中になりつつあるということを認識し、専門家として何をすべきか考えていかなければならない、ということが今後の課題になると思います。

パテキャリ編集部 なるほど、ありがとうございます!本日は貴重なお話をありがとうございました。

パテキャリ編集部 編集長 パテキャリ編集部は、弁理士など知財実務関係者のみで構成されているチームです。
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