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弁理士試験と独学

パテキャリ編集部 編集長
弁理士試験と独学

1.はじめに

 弁理士は、主に特許権や商標権といった知的財産権の取得を代理する国家資格ですが、弁理士になるためには弁理士試験に合格しなければなりません。では、弁理士試験に合格するための学習は独学が可能なのでしょうか。比較的近年の合格者である現役弁理士が、自らの経験も踏まえて考察したいと思います。

2.弁理士試験の概要と難易度

 弁理士試験は年に一度行われ、短答式試験、論文式試験、口述試験からなります。基本的には知的財産権に関する法律や条約が試験範囲ですが、論文式試験では選択科目も存在し、文系科目の場合は民法のみ、理系科目の場合は機械・応用力学、数学・物理等の計5科目の中から選択することとなります。ただし、選択科目は一定の要件を充たす場合は免除になりますので、詳しくは特許庁のウェブサイトをご確認ください。

 近年、弁理士試験の合格率は6%〜10%の範囲で推移しており、国家試験の中でも低い部類に属しています。また、合格までに必要な時間は一般的に3000時間程度とされており、相応の努力が必要となります。さらに、科目数の多さや細かい知識が問われる点なども考慮すると、決して優しい試験ではないといえます。

3.一般的な弁理士試験受験生の学習方法

 さて、上記のように難易度の高い弁理士試験ですが、一般的な弁理士試験受験生はどのように学習しているのでしょうか。

 私は2019年の合格者ですが、私の世代、少し上の世代、そして直近の世代の合格者のいずれに聞いても、そのほとんどは資格試験予備校を利用しています。かくいう私自身も大手予備校を利用して勉強していました。弁理士試験対策講座を有する予備校の数は多くなく、大手予備校3、4校程度が独占している状態です。このような予備校では、入門講座から始まり、短答式試験向け講座、論文式試験向け講座など順を追って受講することができ、必要な知識を網羅的に学習することができます。また、判例に特化した講座のように特に自分が強化したい分野を集中的に学べる講座もオプションとして用意されていたり、答練、模試なども豊富に準備されているため、弁理士試験に必要な知識は全て学べる環境が揃っているといえます。

4.独学の可否

(1)独学の方法

 それでは、予備校を利用せず独学する場合、どのような方法があるのでしょうか。もちろん人によって千差万別ではありますが、知識のインプット用として予備校から出版されているテキスト、学者が著者となっている基本書、特許庁が編者となっている工業所有権法(産業財産権法)逐条解説などを使用するケースが一般的でしょう。なお、この逐条解説は特許庁の公式見解が示された書籍として貴重であるため、予備校を利用する場合であれ独学する場合であれ、受験生であればマストな書籍といえます。書籍として購入すると1万円以上する高額なものですが、特許庁のウェブサイトでもPDF版が公開されていますので、こちらを利用しても良いでしょう。また、判例については市販の判例集なども販売されています。

 アウトプットについては、短答式試験であれば解説付きの過去問集が販売されていますので、自身で解いて答え合わせすれば合格ラインに到達しているか否かある程度判断できます。しかし、論文式試験については過去問を解くだけでは自身の論文がどの程度のレベルにあるのか自ら判断することは難しいため、必要に応じて受験予備校の答練や模試に参加するのが望ましいといえます。また、口述試験についても予備校や弁理士の各会派が実施している模試に参加するなどして対策するのが良いでしょう。

(2)独学の可否とメリット、デメリット

 では、弁理士試験の独学は可能なのでしょうか。答えは、イエスでもありノーでもあるといえます。というのも、独学で合格すること自体は不可能ではないものの、かなり難しいというのが実情であり、決しておすすめできるものではないからです。私も様々な弁理士と交流がありますが、私の知る限り受験生時代に独学だった者は1名しかおらず、かなり例外的なルートといえます。

 ここで、独学のメリットとデメリットが気になる方もいらっしゃると思いますので、両者を比較していきたいと思います。

・費用面について

 独学のメリットとしてまず思い付くのは、費用の安さでしょう。確かに、予備校の入門講座からアウトプット向け講座まで含めると、数十万円はかかるのが一般的です。そのため、インプットを全て市販の書籍でまかない、アウトプットも論文用の答練などにとどめればかなりの節約になります。しかし、問題はそれで本当に合格可能なのかという点です。基本書や逐条解説などを買い揃えても、それらは弁理士試験用に執筆されたものではないため、試験と無関係の論点が詳述されている一方で試験に頻出の論点が薄くしか記載されていないといったことも多々あります。弁理士試験合格が目標なのであれば、試験に必要な知識は厚く、不要な知識はなるべく排除するという情報の取捨選択が必要です。しかし、初学者が文字ばかりの分厚い本を見て大切な論点とそうでない部分を判断することは難しいでしょう。予備校が発行している市販の参考書であっても、予備校の講座で配布されるテキストと比べると質、量共に不十分です。

 一方、予備校であれば試験に特化したテキスト、講義が用意されているため、法律用語や知財の知識がゼロの状態からでも効率的に必要な知識を習得していくことができます。また、講義を受講していれば論文式試験ではどのような答案が評価されるのか、といったテクニカルな知識も伝授してくれます。そのため、全くの初学者であっても1〜3年程度で合格する者は多くいます。

 これに対し、独学の独りよがりな勉強では誤って理解したまま誰からも指摘されない、といった危険があります。結果的に何年経っても合格できないのでは本末転倒ですし、何年も経ってから結局予備校に通うのでは大きな時間のロスとなります。予備校代の数十万円は決して小さな額ではありませんが、弁理士資格の有無で年収に100万円単位で差がつくことも多く、予備校代はすぐに回収できてしまうともいえます。そのため、個人的には、遠回りをせず時間を節約するための投資だと割り切って予備校代を支払う方が良いと思います。

・勉強の取り組みやすさについて

 「仕事が忙しくて予備校に通う暇がない」、「田舎なので近くに予備校が無い」といった理由で独学を考えている人もいると思います。こうした勉強への取り組みやすさという観点からは、予備校での勉強は不利に映るかもしれまけん。しかし、実はどの大手予備校も多くの講義をオンラインで提供しており、仕事やプライベートの都合、居住地などにかかわらず学習に励むことができます。かくいう私もオンラインで講座を受講していましたし、合格までに対面授業受けたことは一度もありません。私が講義を受けていた予備校ではオンラインで質問もできるようになっており、重宝しました。

 このように、忙しい方や地方居住者でもオンラインで好きな時間に、好きな場所で勉強できるため、勉強への取り組みやすさという観点で予備校が不利ということは全くありません。

・モチベーション維持の比較

 独学をする上で問題なのが、モチベーションの維持です。弁理士試験は決して簡単な試験ではないため、時にはくじけそうになることもあるかもしれません。特に、初学者のうちは難解な用語や細かい内容に勉強を投げ出したくなることもあるでしょう。しかし、そんな時でも予備校に通っていれば、一緒に勉強をしたり励まし合う仲間ができ、モチベーションアップになることも少なくないと思います。私の場合は完全なオンライン学習でしたので一緒に勉強する仲間はいなかったのですが、画面越しの先生の存在や一言一言はモチベーション維持に大きく役立ちました。独学を考えている方は、数年という期間一人で勉強のモチベーションを維持できるのか、十分考える必要があります。

・ペースメーカー

 1人で勉強していると、どれ位のペースで勉強を進めれば良いのか、いつどんな内容の試験対策に着手すれば良いのか、といった判断は難しいと思います。また、強制的に勉強をする契機に乏しいため、本来求められる学習進度からどんどん遅れをとってしまう恐れもあります。しかし、予備校に通っていれば、必要な講義を必要なタイミングで提供してくれるので、有用なペースメーカーとして機能します。

5.まとめ

 以上見てきたように、独学にはデメリットこそあれ、メリットは殆どありません。独学を検討する方の多くは、費用や時間の節約を見越してのことだと思いますが、前述のように独学ではそもそも合格できない可能性も少なくありません。仮に7、8年かかって独学で合格できても、機会費用の損失などを考慮すれば、予備校費用を払って2、3年で合格して早々に弁理士としての経験を積んだ方が、キャリア・アップ、年収アップの面からは遥かにプラスです。

 そのため、筆者の結論としてはやはり独学はおすすめできないということになります。ただ、一言で「独学をしない」といっても様々な勉強方法があります。予備校に通うにしても様々な講座が用意されていますし、学生の方は大学で提供されている弁理士試験対策講座を利用できることもあるでしょう。自習時間を多く取るのが向いている人もいれば、ゼミなどで他の受験生と共に勉強するのが向いている人もいるでしょう。自分に合った勉強方法で学習を進めていくことが合格への近道となりますので、是非予備校や周りの合格者などのアドバイスを参考に、ベストな勉強方法を見つけてください。皆さんの早期合格と将来のご活躍を祈念しております。

パテキャリ編集部 編集長 パテキャリ編集部は、弁理士など知財実務関係者のみで構成されているチームです。
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