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生成AIで特許技術者の実務はどう変わる?

岩崎 禎 某製薬企業勤務・(株)NATAコーポレーション 知的財産部長・いわさき総合知的財産事務所 代表弁理士
生成AIで特許技術者の実務はどう変わる?

 近年、ChatGPTなどの大規模言語モデルを搭載した生成AIが急速に技術革新を遂げています。生成AIは多くの注目を集めておりますが、特許技術者の実務にも大きな変化をもたらしつつあるのです。

 読者の皆さんの中には、もしかしたら「自分の仕事にも生成AIの影響があるのでは」と不安を感じている特許技術者の方も多いのではないでしょうか。特許明細書の作成や中間応答、発明ヒアリングの準備など、専門性が求められる実務において、本当にAIは仕事に役に立つのか。AIに仕事が取って代わられるのではないか。そんな心配の声も聴く機会が増えました。

 本記事では、生成AIが特許技術者の実務をどのように変え、どのように活用すべきかを具体例を交えて解説します。AIを敵ではなく味方とするための第一歩として、ぜひ参考にしてください。

特許実務における生成AIの活用メリット

 先に、結論から申し上げれば、生成AIは特許技術者の業務を「置き換えるもの」ではなく、「拡張するもの」と捉えるべき存在です。この認識を持てるかどうかが、これからのキャリア形成において極めて重要です。

 なぜなら、生成AIは情報処理能力と文章生成能力において、多くの人間を凌駕する側面を持っており、それを使いこなすことで、これまで数時間かかっていた業務を短時間でこなすことが可能になるからです。たとえば、先行技術調査の初期段階における検索式の生成、技術文献の読み込み、中間応答書類のドラフト作成、技術内容の要約など、特許実務の中でも繰り返しが多く時間がかかる作業において、生成AIは強力なパートナーとなりえます。

実例1:中間応答文書のドラフト作成への応用

 実際に、いくつかの特許事務所では、生成AIを活用して中間処理文書のドラフト作成を行う取り組みを始めています。

 担当者はまず、拒絶理由通知に記載された拒絶理由をAIに読み込ませ、審査官の認定を分析し、それに対して、簡潔な反論案を生成させます。その結果、技術的な内容を把握した上での検討が効率的に進み、以前よりも短時間で完成度の高い応答案が作成できるようになっているようです。もちろん、最終的なチェックや細かい文言調整は人間が行いますが、その補助として生成AIが実際に有効に機能しているのです。

実例2:発明ヒアリング準備の効率化と生成AI

 また、発明内容のヒアリングの準備においても、生成AIは活躍しています。クライアントからの発明内容のヒアリングの場は、特許出願書類を作成するに際し、非常に重要な場です。特許技術者である皆さんは多くの場合、技術常識を有していることが多いとは思いますが、完全な技術者という立場ではありません。そのような場に生成AIを活用してみるのはいかがでしょうか。例えば、ヒアリングに臨む前に関連技術や類似特許の情報を収集し、要約させることで、クライアントとの対話の質を高める準備が整います。

 また、特許明細書の構成パターンを事前に提案させるといった使い方も可能です。ヒアリングの際に事前資料以外にクライアントに提示できる内容が充実するのではないでしょうか。特に経験の浅い技術者にとっては、このような情報の整理をあらかじめ行っておくことで、作業の見通しが立ちやすくなる利点があります。

生成AI導入への不安とその対処法

 一方で、「生成AIを使いこなすには特別な知識が必要なのでは?」という不安を抱く方も多いでしょう。確かに、初めて使う際には戸惑う部分があるかもしれません。しかし、現在一般に利用可能な生成AIツールの多くは、対話形式で操作できるため、専門的なプログラミング知識は必要ありません。たとえばChatGPTなら、自然な日本語で質問や指示を入力するだけで、実務に即した回答を得ることが可能です。

 ただし、一定の質問文(プロンプト)の知識は必要です。大規模言語モデルは、世の中に知られた膨大な情報から、関連すると思われる情報を抽出して、文章等を生成しています。生成AIに投げかけるプロンプトをうまく加工・調整してあげることで、より精度の高い回答を得ることができ、特許技術者の実務にすぐに応用できる回答につながることが期待できます。そのために、プロンプトをどう加工したらよいかというプロンプトエンジニアリングの知識をぜひ身に着けておく必要があるように思います。

セキュリティと情報漏洩リスクへの対策

 生成AIの活用は、非常に便利なものですが、情報漏洩のリスクも気にしなくてはなりません。例えば、Chat-GPTに対して投げかけた内容は、Chat-GPTの学習に利用されることがOpen AI社から明らかにされています。出願前の機微な情報であったり、クライアントの機密情報をうっかりChat-GPTに入力してしまったりした結果、新規性に影響を与えてしまったり、情報漏洩を問われたりすることのないように十分に留意してください。

 一方で、これについても一定の対策は講じることができます。機密情報を扱う際には、入力情報を匿名化して入力することで情報を特定される可能性をさげたり、クライアントや事務所内の内部情報が入力可能なクローズドな環境を構築した生成AIツールを利用したりすることで、情報漏洩のリスクを最小限に抑えることができます。

 重要なのは、大規模言語モデルを搭載した生成AIツールの仕組み、リスク、限界を理解した上で、適切な運用ルールを整備することです。

今後の展望と特許技術者のキャリア戦略

 今後、生成AIの進化により、特許技術者の実務のさらなる効率化が期待されます。

 たとえば、単純な書類作成作業の時間が短縮されることで、生み出された余剰の時間を、出願戦略の立案支援や、複数案件の類似性の分析、さらにはクライアントへの説明資料の自動生成など、より高度なサービス提供につながる活用が現実のものとなっていくでしょう。そのとき、特許技術者であるあなたはAIを「競争相手」として捉えますか?それとも「協働者」として活用しますか?どちらの認識をもつかによってあなたのキャリアの可能性は大きく変わります。

まとめ:生成AIは特許技術者の心強い味方

 冒頭でも述べましたが、結論として、生成AIは特許技術者にとって脅威ではなく、価値ある支援者です。今後の変化を恐れるのではなく、まずは小さな業務、簡単な業務からでも実際に生成AIを使い始めてみることが重要です。

そうすることで、自らの業務を効率化し、より創造的で価値の高い仕事に集中する環境を整えるための気づきを自ら得ることができるでしょう。生成AIとの共存こそが、これからの特許技術者の知財実務を支える新たなスタンダードとなっていくことでしょう。

岩崎 禎 某製薬企業勤務・(株)NATAコーポレーション 知的財産部長・いわさき総合知的財産事務所 代表弁理士 製薬企業での研究者時代に知財に出会い、その後どっぷり知財の道へ。医薬・医療機器・医療用アプリ分野を中心に、企業内弁理士の観点で特許・商標と幅広く従事している。また、長年にわたり社内知財教育等の教育活動も続けている。(株)NATAコーポレーションの知的財産部長として、フレンドリーCRO®システムを活用した創薬ベンチャーの業務支援やコンサルティングに携わりつつ、いわさき総合知的財産事務所の代表弁理士としても幅広くサポートを提供している。
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