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知財人材として生き残るために「書ける」から「伝えられる」へ

岩崎 禎 某製薬企業勤務・(株)NATAコーポレーション 知的財産部長・いわさき総合知的財産事務所 代表弁理士
知財人材として生き残るために「書ける」から「伝えられる」へ

AI時代に選ばれる知財人材の条件とは

 知財業界では長年、「正確に書ける」ことがプロフェッショナルの証とされてきました。特許明細書に代表されるように、文章の構造、技術用語の理解、表現の精度は業務品質そのものと評価されていたからです。しかし、近年では生成AIの発展により、ある程度「自動で書けてしまう」時代が到来しつつあります。こうした変化の中で、知財人材に求められる力もまた大きく変わりつつあります。これからの時代において生き残るためには、「書ける」ことだけでなく「伝えられる」ことが一層重要になってくるのです。

1. 書けるだけでは足りない理由

 まず確認しておきたいのは、生成AI(ここでは自然言語処理に適したLLM搭載の生成AIを指します)の進化が「書く」という行為の性質を大きく変えてしまったという事実です。特許明細書の初稿や中間応答案、技術レポートの素案など、従来は人間が多くの時間をかけて推敲を重ねて作成していた文書が、今ではAIの補助によって短時間で生成できるようになってきました。

 これは非常に効率的ではあるものの、「文書を作る」こと自体が特別なスキルではなくなりつつあるということでもあります。必ずしもAIが完璧なドラフトを作成できる段階ではまだない認識でいますが、近い将来必ずその時は訪れるでしょう。

 つまり、「正確に書ける」ことの価値が、以前よりも相対的に下がってきているのです。このような状況下では、「なぜその情報が必要なのか」、「どのように伝えれば相手に刺さるのか」という伝える力が差別化要因となってきます。

2. 「伝える力」が問われるシーンとは?

 知財の実務では、実は日常的に多くの「伝える」機会があります。たとえば、特許事務所にお勤めの場合は、クライアントへのヒアリングが頻繁に発生します。技術の核心を引き出すために質問の意図を明確に伝える必要があるでしょう。

 また、企業知財部にお勤めの場合でも社内のビジネス部門に対して特許の価値やリスクを説明する場面でも、「専門用語をかみ砕いて説明する力」が求められます。さらには、外国代理人との英文メールでのやりとり、社内研修や教育のプレゼンテーションなど、多様なコミュニケーションが日々発生します。これらは単なる「報告」ではなく、「相手の理解を引き出すこと」が目的です。つまり、情報を的確に伝えるスキルがなければ、実務上の信頼を勝ち取ることは難しくなるのです。

3. 「伝える人」が成果を出す理由

 伝える力が高い人材は、周囲との信頼関係を構築しやすく、結果としてアウトプットの質とスピードを両立できます。たとえば、明細書を書くにしても、発明者から正確で濃密な情報を得られれば、内容の精度も格段に向上します。また、社内の意思決定者に対して特許戦略を明快に伝えられる人は、プロジェクトの推進力となり得ます。

 逆に、いくら書くスキルがあっても、それが「伝わらない」ものであれば価値は半減してしまいます。この時代、そしてこれからの時代に知財の現場で求められるのは、「文章の正確性」だけでなく「その情報が誰に、どのように影響を与えるか」を意識した発信なのです。まさに「伝える力」こそが、知財人材としての真の競争力と言えるでしょう。

4. 実践的に「伝える力」を高めるには?

 伝える力を鍛えるには、意識的なトレーニングが必要です。まず最も手軽なのは、PREP法(Point-Reason-Example-Point)に代表されるような論理的な思考の活用です。これは話の骨格を論理的に組み立てる基本的なフレームであり、口頭でも文書でも有効です。次に、意識的に相手目線を取り入れることも重要です。

 たとえば、「技術に明るくない部長に説明するつもりで話す」といった心構えのひと工夫が、伝わる言葉選びを導いてくれます。今回のプレゼンにおいて部長が欲している内容を的確にとらえ、部長が意思決定したい内容に刺さる情報を伝えることで、結果としてあなたの意図も「伝わる」ようになるのです。

 また、プレゼンや説明の内容を録音・録画して自己分析することで、改善点を可視化するのも有効です。このような日々の積み重ねによって、「伝える力」は確実にスキルとして定着していきます。

5. 「伝える力」はキャリアの武器になる

 伝える力を持つ知財人材は、今後ますますキャリアの選択肢が広がると考えられます。たとえば、スタートアップ支援や社内教育、知財戦略立案といった領域では、「情報をわかりやすく整理し、相手を動かす力」が最も重宝されます。また、顧客や経営層とのコミュニケーションが重要となるコンサル型業務においても、書類を書くだけでは通用しません。さらに、生成AIを活用する立場になる場合も、指示文(プロンプト)を設計し、アウトプットを再構成する能力が問われます。つまり、どの方向にキャリアを伸ばすにしても、「伝える力」は決して無駄にならない、むしろ今後の中核となるスキルなのです。

おわりに:AI時代に選ばれる知財人材とは

 数十年前、海外とのビジネスが活発に行われるようになった時代において、英語力をはじめとした語学力は、とても強い武器となりました。その後、IT技術が発達し、PCスキルやITリテラシーの深さは時代をけん引してきたスキルで、今やビジネスマンになくてはならないものになっています。

そして現代はAIが盛んに技術革新を遂げている時代です。この時代においては、進化するAIと共存してその中でもあなたの強みを出していく必要があるのです。今や、AIによって「書けること」が当たり前になる時代において、弁理士とはじめとした知財人材に価値が残るのは「伝えられる人材」です。技術を理解し、情報を整理し、相手にとって意味ある形で届ける力――それこそが、知財実務をリードする人に求められる資質です。もし今、「文章を書くことに自信がある」なら、それをベースに伝える力へと進化させる絶好のチャンスです。

知財の仕事が、単なる書類作成だった時代はもう終わっています。それだけではなく、技術とビジネスをつなぐ「橋渡し」の役割を担うものです。そして、その橋を強くしなやかに架けるのは、まぎれもなくあなたの伝える力なのです。

岩崎 禎 某製薬企業勤務・(株)NATAコーポレーション 知的財産部長・いわさき総合知的財産事務所 代表弁理士 製薬企業での研究者時代に知財に出会い、その後どっぷり知財の道へ。医薬・医療機器・医療用アプリ分野を中心に、企業内弁理士の観点で特許・商標と幅広く従事している。また、長年にわたり社内知財教育等の教育活動も続けている。(株)NATAコーポレーションの知的財産部長として、フレンドリーCRO®システムを活用した創薬ベンチャーの業務支援やコンサルティングに携わりつつ、いわさき総合知的財産事務所の代表弁理士としても幅広くサポートを提供している。
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