弁理士試験の難易度は、どのくらい?~知的財産の専門家 弁理士として働くため~
弁理士とは、知的財産に関する法律を専門とする国家資格です。
弁理士は、特許や商標の権利を取得する手続きなど、知的財産について様々な業務を行います。そのため、弁理士には、高い専門性と実務能力が求められます。弁理士の資格を得るためには、弁理士試験に合格する必要があります。それでは、弁理士試験とは、どれほどの難易度なのでしょうか。
この記事では、弁理士という職業の概要および弁理士試験の難易度についてご説明します。弁理士という職業に興味のある方、弁理士を目指してみたい方は、ぜひお読みください。
1.弁理士とは
弁理士は、特許権、実用新案権、意匠権、商標権などの知的財産権を取得したい方のために、特許庁への手続きを代理して行います。
特許権、実用新案権は、発明等を保護するための権利です。
意匠権は、デザインを保護するための権利です。
商標権は、 自社の取り扱う商品や役務(サービス)を他社の商品や役務と区別するために使用するマークを保護するための権利です。
知的財産権って、日常生活とどんな関係があるんだろう?と思われる方がいるかと思います。皆さんが普段使っている物の中には、知的財産権がいくつも関係していることがあります。例えば、Apple社のiPhoneは、以下のような知的財産権で保護されています。
特許権:タッチパネル(タッチスクリーン)に関する、スライド式ロック解除の特許
出典:特許第5457679号
意匠権:携帯情報端末のデザイン
商標権:Appleロゴ(一部がかじられているリンゴのマーク)
出典: 商標登録第5137030号
弁理士は、知的財産の専門家として、知的財産の保護に興味がある方から相談を受けて助言やコンサルティングを行うこともあります。助言やコンサルティングの例としては、革新的な技術・アイデアで短期的に成長する、いわゆるスタートアップ企業の支援に関する助言やコンサルティングが挙げられます。
出典:スタートアップ向け情報 | 経済産業省 特許庁 (jpo.go.jp)
知的財産権を取得するためには、思いついたアイデアを文書や図面に表した書類を作成して、特許庁に対して取得したい権利を申請するなど、複雑で高度な知識が求められます。そのため、このような作業を一般の方が行うのは難しいことがあります。このような場合に、一般の方に代わって作業を代理する役割を担うのが、弁理士です。そのほか、弁理士は、知的財産についての評価・戦略を作成したり、紛争が発生した時に解決の支援をするなど、知的財産に関するさまざまな場面に対応します。
知的財産は企業・個人ともに関心が高い分野です。そのため弁理士は、さまざまな場面で求められ、高い需要があります。
弁理士は、例えば、以下のような場所で働いています。
特許事務所
特許事務所に所属する弁理士として知的財産に関する業務を行います。数年間、特許事務所で勤務した後、独立して個人で事務所を開業することも可能です。英語など語学が得意な弁理士は、海外の特許事務所で働くこともできます。
一般企業
企業の知的財産部に所属する等して、所属する企業の知的財産を保護する業務を行います。
特許庁
特許庁で審査官として働く弁理士もいます。
近年、権利を申請するための書類を電子的に作成して特許庁へ提出することが増えています。そのため、弁理士の仕事は、職場に出社せず自宅などで働くことができるテレワークとの相性が比較的良いといえます。テレワークでの勤務を希望される方にとって、テレワークによる業務が推奨されている特許事務所や企業で働くことは、弁理士として働くことのメリットの一つになると思います。
2.弁理士試験の難易度
弁理士試験の難易度について具体的に解説します。
<合格率>
最近5年間(令和元年~5年度)の弁理士試験の最終合格率は、以下の表に示すように、6~10%です。
年度 | 志願者数(人) | 最終合格者数(人) | 合格率(%) |
2023(令和5)年 | 3,417 | 188 | 6.1 |
2022(令和4)年 | 3,558 | 193 | 6.1 |
2021(令和3)年 | 3,859 | 199 | 6.1 |
2020(令和2)年 | 3,401 | 287 | 9.7 |
2019(令和元)年 | 3,858 | 284 | 8.1 |
出典:弁理士試験 | 経済産業省 特許庁 (jpo.go.jp)
なお、弁理士試験は3種類の試験(短答式試験・論文式試験・口述式試験)に合格する必要があります。
それぞれの試験で出題される法域と合格率の目安は、以下の通りです。
試験の種類 | 出題方式 | 出題される法域 | 合格率の目安(%) |
短答式 | マークシート式 | ・特許、実用新案・意匠・商標・条約・不正競争防止法・著作権法 | 10~18% |
論文式(必須) | 記述式 | ・特許、実用新案・意匠・商標 | 25~28% |
論文式(選択) | 記述式 | 以下のうち、いずれか1つを選択1, 理工I(機械・応用力学)2, 理工II(数学・物理)3, 理工III(化学)4, 理工IV(生物)5, 理工V(情報),6, 法律(弁理士の業務に関する法律) *民法 | |
口述式 | 面接 | ・特許、実用新案・意匠・商標 | 90~98% |
出典:弁理士試験 | 経済産業省 特許庁 (jpo.go.jp)
3つの試験のうち、最初に受験する短答式試験は、出題される法域が広く、合格率がもっとも低いです。論文式試験の合格率もあまり高くはありません。ただし、論文式試験のうち選択試験は、所定の修士・博士・専門職学位を取得している受験者、所定の資格を取得している受験者は、試験が免除されます。
口述式試験の合格率は高いです。
出典:弁理士試験の免除関係に関するQ&A | 経済産業省 特許庁 (jpo.go.jp)
<令和5年度の弁理士試験>
令和5年度の弁理士試験の傾向は、以下のようになっています。
受験回数
1回 | 16.5% |
2~5回 | 70.2% |
6回以上 | 13.3% |
合格者の年齢
20代 | 31.4% |
30代 | 47.3% |
40代 | 13.3% |
50代以上 | 8% |
合格者の性別
男性 | 63.3% |
女性 | 36.7% |
最近5年の傾向として、女性の合格率がアップしています。
年度 | 合格率(%) |
2023(令和5)年 | 36.7% |
2022(令和4)年 | 31.1% |
2021(令和3)年 | 33.2% |
2020(令和2)年 | 25.1% |
2019(令和元)年 | 26.4% |
合格者の職業
年度 | 合格率(%) |
会社員 | 48.9 |
特許事務所 | 33.5 |
無職 | 5.9 |
公務員 | 4.8 |
法律事務所 | 2.7 |
学生 | 2.1 |
その他(自営業含む) | 2.1 |
各傾向の出典:弁理士試験 | 経済産業省 特許庁 (jpo.go.jp)
これらの傾向から、合格者は
・多くの受験者は、2回以上受験している。
・20~30代が多いが、40代以上でも合格可能である。
・比較的、男性の割合が多いが、近年、女性の合格率がアップしている。
・会社員または特許事務所に勤務する方が多い。
ことが分かります。
<必要な勉強時間>
弁理士試験の合格に必要な勉強時間は、3,000時間が目安といわれています。
(実際の勉強時間は、学習を始めた時期や実務経験の有無によって変わります。)
3,000時間を勉強するということは、仮に1日平均5時間勉強した場合でも、1年半以上の期間がかかります。そのため、弁理士試験の勉強は、計画的に進めること、やる気を持続させることが求められます。
仕事と並行して試験勉強をする場合は、仕事の合間にうまく勉強時間を確保することも必要です。
3.他の資格試験の合格率・勉強時間との比較
令和5年度の弁理士試験の難易度を、受験資格の制限がない他の資格試験の合格率(令和5年度)と比較します。
資格名 | 合格率(%) |
司法書士 | 5.1 |
弁理士 | 6.1 |
公認会計士 | 10.7 |
行政書士 | 13.98 |
宅地建物取引主任者 | 17.2 |
出典:法務省、特許庁、金融庁、行政書士試験研究センター、不動産適正取引推進機構 各ウェブサイト
このように、受験資格の制限がない法律系の国家資格としては、弁理士試験は難易度が高めの傾向があるといえます。
ちなみに、先ほど比較した法律系の資格試験について、勉強時間の目安は以下であるといわれています。
資格名 | 勉強時間の目安(時間) |
宅地建物取引主任者 | 400~600 |
行政書士 | 1,000程度 |
弁理士 | 3,000 |
司法書士 | 3,000以上 |
公認会計士 | 3,000以上 |
他の法律系の資格試験と比較して、弁理士試験の勉強時間は、多めであるといえます。
4.弁理士試験に合格するには
弁理士試験は、出題される法律の範囲が広く、勉強時間も多いため、計画的に勉強を進める必要があります。
また、弁理士試験の概要を理解し、試験の概要に対応した準備ができるよう、学習を進めることも必要です。
弁理士試験の勉強は独学で行うことが可能です。しかし、短期間で計画的・効率的に勉強して合格したい方、受験仲間を作って勉強のモチベーションを保ちたい方は、受験機関を利用するのもよいと思います。
5.まとめ
・弁理士は知的財産法を専門とする国家資格で、産業財産権に関する業務を行います。
・仕事内容は、知的財産に関する権利の取得に関連する業務から相談・コンサルティング業務まで幅広いです。
・特許事務所や一般企業などの組織に属して働く弁理士が多いです。独立開業したり、海外で弁理士として仕事をすることも可能です。
・知的財産は企業・個人ともに関心が高い分野ですので、弁理士の業務は高い需要があります。
・弁理士試験は最終的な合格率が10%弱であり、他の資格試験と比較して難易度が高いといえます。
・試験に合格するためには、3,000時間ほどの勉強が必要なため、計画的な勉強が必要です。短期間で効率的・計画に勉強して合格するために、受験機関を利用してもよいです。
弁理士という職業に興味を持って、弁理士試験を受験される方は、ぜひ頑張ってください!