弁理士になるための弁理士試験! その合格率ってどのくらい?
こんにちは、弁理士・薬剤師の岩崎です。
この記事では・・・
弁理士試験に興味を持っている方に向けて、合格率や試験の難易度について
基本的な情報を提供しています。
■ 弁理士試験についての詳細は特許庁ウェブサイトをご覧ください。
■ 弁理士試験の合格率や試験内容については、資格スクール・受験対策予備校のウェブサイトや書籍の情報も参考になります。
1.弁理士試験とその合格率は?
弁理士試験とは、知的財産に関する法律の専門家である弁理士になるための専門的知識を問う国家資格の試験です。弁理士試験には短答式筆記試験、論文式筆記試験、口述式試験の3つがあり、合格にはその全てを突破する必要があります。
1-1. 令和時代の弁理士試験合格率の傾向
特許庁の発表によれば、令和5年度(2023年度)の弁理士試験は3,065人が受験し、188人が合格していますので、最終合格率は6.1%です。
※最終合格というのは、3つの試験をすべて突破しているということ
元号が令和になってからの5年間をまとめると、下表のとおりです。
年度 | 受験者数(人) | 最終合格者数(人) | 最終合格率(%) |
2023(令和5年) | 3,065 | 188 | 6.1 |
2022(令和4年) | 3,177 | 193 | 6.1 |
2021(令和3年) | 3,248 | 199 | 6.1 |
2020(令和2年) | 2,947 | 287 | 9.7 |
2019(令和元年) | 3,488 | 284 | 8.1 |
出典:弁理士試験 | 経済産業省 特許庁 (jpo.go.jp)
1-2. 弁理士試験は合格率が低い
弁理士試験の5年平均合格率は約7%で、直近3年間はいずれも6.1%と合格率がとても低い国家試験です。国家資格の試験の中でも特に難易度が高い試験といえるでしょう。受験者は熾烈な競争に直面し、多くの時間と努力をかけて学習します。合格するためには、知識だけでなく、問題解決能力や論理的思考力も必要です。
1-3. 合格のためには約3,000時間の学習がいる
弁理士試験の合格のために必要な学習時間の目安は約3,000時間と言われています。もし1日に10時間の学習時間を休みなく毎日確保できた場合で約300日、1日5時間の場合で約600日に相当し、平均受験回数は3~4回です。独学で最終合格に到達する方もいますが、資格スクール、受験対策予備校、通信講座で対策に取り組む方が多く、1年で合格する方もいれば、時には合格まで長い道のりとなる場合もあります。
2. 試験制度と試験制度別の合格率は?
2-1. 受験資格はないので誰でも挑戦できる
弁理士試験には受験資格がありません。例えば、様々な法律の専門家である弁護士になるための司法試験には、受験資格として予備試験の合格が必要です。それに対して弁理士試験は誰でも受験することができますので、学歴・性別・年齢・国籍等による制限は一切なく、取り組みやすい可能性があります。
2-2. 3つの試験の特徴と試験別の合格率
弁理士試験を構成する3つの試験の特徴と試験別合格率をみてみましょう。
1)短答式筆記試験(合格率:約10~20%)
形式 | 5肢択一のマークシート式 |
問題数 | 60問 |
試験時間 | 3.5時間 |
出題範囲 | ✔ 特許、実用新案に関する法令✔ 意匠に関する法令✔ 商標に関する法令✔ 工業所有権に関する条約✔ 著作権法、不正競争防止法 |
合格基準 | 全体で満点の65%以上(ただし、各科目40%を下回る科目がないこと) |
出典:弁理士試験の概要 | 経済産業省 特許庁 (jpo.go.jp)
短答式筆記試験では、3.5時間で60問に回答する必要があります。長い試験時間との印象を受けるかもしれませんが、1問あたり3.5分で回答する必要があり、5肢択一ですので、1肢あたりは約40秒で回答が必要です。迅速な判断力と高い集中力が求められます。
2)論文式筆記試験(合格率:約25%)
形式 | 論文記述式 |
問題数 | 必須:3科目 選択:1科目 |
試験時間 | 【必須科目】✔ 特許・実用新案 2時間 ✔ 意匠 1.5時間✔ 商標 1.5時間【選択科目】 1.5時間 |
出題範囲 | 【必須科目】✔ 特許、実用新案に関する法令✔ 意匠に関する法令✔ 商標に関する法令【選択科目】※下記のうち1つを選択✔ 機械・応用力学(理工Ⅰ) ✔ 数学・物理(理工Ⅱ)✔ 化学(理工Ⅲ) ✔ 生物(理工Ⅳ)✔ 情報(理工Ⅴ) ✔ 法律(弁理士の業務に関する法律) |
合格基準 | 【必須科目】全体で満点の54点以上(※47点を下回る科目がないこと)【選択科目】満点の60点以上 |
出典:弁理士試験の概要 | 経済産業省 特許庁 (jpo.go.jp)
論文式筆記試験では、約2,000文字の論文を一日で最大4通作成する必要があります。また、必須科目は相対評価となりますので、ご自身の成績だけではなく、他の受験生の成績によっても合否が分かれます。高い集中力とともに、精度の高い論理的思考力が求められます。
3)口述式試験(合格率:90%以上)
形式 | 口述式(面接) |
問題数 | 3科目 |
試験時間 | 科目ごとに約10分 |
出題範囲 | ✔ 特許法・実用新案法✔ 意匠法✔ 商標法 |
合格基準 | 「C」評価が2つ以上ないこと※各科目「A」~「C」の3段階評価 |
出典:弁理士試験の概要 | 経済産業省 特許庁 (jpo.go.jp)
弁理士試験の最終試験である口述式試験は、2人1組の試験官との面接で行われます。試験時間は約10分ずつと短いですが、これまでの筆記試験と異なり面接による問答は独特の緊張感の中で取り組む必要があり、しっかりとした対策が要ります。
2-3. 令和時代の試験別の合格率推移
令和時代の試験科目別の合格率は以下の通りです。
5年平均 | 2023(令和5年) | 2022(令和4年) | 2021(令和3年) | 2020(令和2年) | 2019(令和元年) | |
短答式 | 14.1 | 12.4 | 10.3 | 11.3 | 18.2 | 18.3 |
論文式 | 26.0 | 28.0 | 26.3 | 25.1 | 25.0 | 25.5 |
口述式 | 95.0 | 94.3 | 96.4 | 90.2 | 98.6 | 95.6 |
出典:過去の試験統計 | 経済産業省 特許庁 (jpo.go.jp)
短答式筆記試験は5年平均では14%の合格率ですが、直近の3年はそれより以前に比べて、合格率が大きく低下しています。つづく論文式筆記試験は平均的に25%程度の合格率です。必須科目が相対評価であるため、例年大きくは変動しません。最後の口述式試験は9割以上の受験生が合格を勝ち取っている一方で、毎年必ず数人は落ちています。最後まで、油断は禁物です。
3.他の国家資格と弁理士を比べると
3-1. 受験資格に制限のない国家資格の合格率の比較
弁理士試験の合格率を、弁理士試験と同様に受験資格に制限のない国家資格の合格率と比べてみましょう。
順位 | 資格名称 | 令和5年度合格率(%) | 受験資格 |
1 | 司法書士 | 5.1 | 制限なし |
2 | 弁理士 | 6.1 | 制限なし |
3 | 土地家屋調査士 | 9.7 | 制限なし |
4 | 行政書士 | 14.0 | 制限なし |
5 | 海事代理士 | 55.7 | 制限なし |
出典:特許庁・法務省・総務省・国土交通省 各ウェブサイト
弁理士試験は、受験資格のない(=誰でも受験可能な)国家資格の中では司法書士に次ぐ合格率の低さであり、最終合格するには精度の高い回答とともに、出題傾向を把握した適切な対策が重要となるでしょう。
3-2. 学習時間から見た他の国家資格との比較
弁理士試験の合格のために必要な勉強時間の目安は約3,000時間と記載しましたが、他の国家試験と比べてみるとどうでしょうか。
資格 | 学習時間目安(時間) |
宅建士(宅地建物取引士) | 300~400 |
行政書士 | 500~600 |
社労士(社会保険労務士) | 800~1,000 |
土地家屋調査士 | 800~1,200 |
司法書士 | 3,000 |
弁理士 | 3,000 |
弁護士(司法試験) | 6,000 |
数百時間から1,000時間程度が目安とされる国家資格がある一方で、弁理士試験は3,000時間が目安であり、司法書士試験と同程度の学習時間が必要なようです。学習時間はあくまで目安であり、直接は合格率につながるわけではありませんが、長期にわたって計画的に学習を進める必要がある資格試験といえるでしょう。
4.まとめ:弁理士試験は難化している?
4-1. 弁理士試験は難化している
上述の合格率が示すとおり、弁理士試験は近年難化してきていると考えられます。特に短答式筆記試験の合格率は、直近3年間はいずれも10%程度ですので、今後も同程度の合格率となる可能性があります。
4-2. 免除制度をうまく活用しよう
合格率から推測すると難化している弁理士試験ですが、1年ですべてに合格しなければならないわけではありません。短答式筆記試験・論文式筆記試験は、その年を含めて合計3回まで、口述式試験は、その年を含めて合計2回まで、各々「免除制度」があります。また、論文式筆記試験の選択科目にも、所定の資格などを有することで受験が免除される「選択免除」があります。
このことから、初年度に短答式筆記試験に合格し、次年度に論文式筆記試験(必須科目)と口述式試験に合格する2年ルートをたどる受験生も多いようです。
4-3. 弁理士の魅力
弁理士試験に合格することで弁理士として働くことができます。弁理士は知的財産のスペシャリストとして高い評価を受け、特に成果主義の職場などでは年収1,000万円以上を得ているケースもあります。合格すれば、専門知識を活かして企業やクライアントのビジネスをサポートする重要な役割を果たせます。
この記事が、弁理士試験の合格率を知って、これから弁理士試験の学習に取り組もうとする方やもう一度取り組もうとする方の参考になれば、ありがたく思います。
弁理士試験に挑戦する皆さん、頑張ってください!